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2010年度 活動報告

1. 研究成果概要

地球環境の変動による多種多様な問題が顕在化する現在、我々は生存基盤である地球システム、人間がつくりあげた社会システム、人間生存を規定する諸要素の総体である人間システムという、レベルの異なる 3 システムを包括的に再考することを迫られている。
このような社会的要請の中で、2005 年に文部科学省科学技術振興調整費(戦略的研究拠点育成)の「サステイナビリティ学連携研究機構」(IR3S)が設立、2007 年に立命館大学が協力機関としての同機構へ参加したことに伴い、「立命館サステイナビリティ学研究センター」(Ritsumeikan Research Center for Sustainability Science; 以下RCS)が設立され、文理融合・機関横断型の研究を展開してきた。
IR3S の設立意義は、地球持続のためのビジョンを構築するために、その基礎となる新しい超学的な学術「サステイナビリティ学」の構築であり、それを受けてのグローバルサステイナビリティの達成であった。持続可能な発展という言葉は、国連ブルントラント委員会の報告書『我らが共通の未来』(1987 年に)の中心的理念に据えられ、地球環境問題を語る文脈において頻用されるに至ったが、その後、持続可能性という基本となる言葉の意味については、合意が形成されるまでに至っていない。RCS では、以下の 4 つの研究フレームから、持続可能な社会とはいかなる社会なのかについて、学際的かつ体系的な教育研究の枠組みをつくることを目的として、以下の4つの視点よりサステイナビリティ学の構築を試みた。
1.アジア型循環システムの構築
2.ポスト京都議定書の国際枠組みの検討
3.気候変動への戦略的アプローチ
4.文化政策への提言
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1.では、「東アジア規模の広域循環システムの構築」と「アジア太平洋都市圏の統合的水管理システムの構築」の研究を中心的に行った。2.においては、ポスト京都議定書の国際枠組みの検討を、IR3S・海外協力機関(者)との共同研究を行い、その成果を2009 年 12 月、コペンハーゲンでの気候変動枠組み条約第 15 回締約国会議に参加し研究者と交流することで、さらなる展開へとつなげた。3.では、気候変動への適応策に着目し、気候変動の中長期予測の中での適応策について、国内外の研究協力者とともに研究を推進した。4.では、環境調和型の文化・文明のあり方について、ポスト工業化社会の持続可能性の探求と、「京都」の歴史性に着目し、研究を推進した。
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2010 年度からは、それまでの研究を継続・発展させるために、「サステイナブル価値の創造と定着」を目指す理念として掲げ、サステイナブルな地球・社会システム基盤における人間を取り巻く 3 つのシステム(地球システム、社会システム、人間システム)の結節点に主眼を置いた研究を推進した。その研究は、「サステイナブルな人間の生活」、「サステイナブルな人間の活動」、「サステイナブルな人間の生存」の 3 つのコンセプトを持ちながら、第1 期に培われた文理融合・機関横断型手法を継続発展させて取り組むこととし、そこで得られた成果については、研究成果にとどまらず ESD 教育や国際人材育成をはじめとする実践成果を社会に発信を行った。また、西洋的アプローチとは異なる自然との共存・共生理念を取り入れた研究を第 1 期から継続した RCS の特色とし、さらに立命館アジア太平洋大学との組織的な共同研究をすすめながら、アジア・太平洋地域を対象とした応用研究の展開も行った。このように、理論から実践までを総合的に含めたアクションとしてのサステイナビリティ学研究とその深化に取り組み、サステイナビリティ学の中核的研究教育拠点として機能できる体制構築を行った。

RCS は、2007 年の設立以来、立命館における実質的な学際的・融合的な研究教育の推進を、異なるキャンパスでの展開といった物理的な障害を克服しながら、学部・領域・キャンパスの横断をもって行ってきた。サステイナビリティを志向する研究者集団として、研究者自身が直面する課題解決に向けて、試験的なセンター運営にならざるを得なかったことは事実である。しかしながら、この 4 年間で獲得した科学コミュニケーションの充実、研究者相互の交流、科学と社会との相互認識のための連携手法は、21 世紀に我々が直面する多様で複雑な緊急課題の解決に貢献していける総合的で融合的な力量を養うだけでなく、新たな課題を発掘する研究者集団、研究組織としての役割を担うに至った。

2. 学術研究交流について主な実績(シンポジウム・研究会の実施など)

名称 概要 実施年度 その他
日中低炭素経済ワークショップ「広域低炭素社会構築を目指して」 CO2 排出削減目標の達成と国境を越えた「東アジア低炭素共同体」の実現を目指して、
日中の専門家同士が一同にして、理論的・実証的視点から研究発表を行った。
2010.9.20 於)同済大学同済大学との協定締結
リサーチセミナー"The Technologies and Experience for Waste Management and Environmental Management" トリア単科大学のハータード教授を招き、ドイツ企業が、部品供給のサプライ・チェーンにおいて、
体系的なサウテイナブルな原料・部品調達を行っている事例紹介・報告を受け、
学内の研究者、学生たちと英語による議論を行った。


RCS 主催ワークショップ
Vol.1~Vol.20
「サステイナビリティ学」構築に向けた研究の推進と普及を目指して、
学外の多分野の専門家を招聘し、2007 年5 月よりシリーズで開催。
2007 年度~2010 年度
BKC フォーラム Vol.1~Vol.11 理工系・社系学部を擁する文理総合型の一大キャンパスであるBKC での研究交流の場であるとともに、
衣笠・APU を結ぶ学際的なサステイナビリティ学構築に向けた研究交流の場、
先端的研究発表の場として、フォーラムを開催。
2007年度~2010年度
RCS プログレスレポート会議 キャンパス間・研究科間での研究進展を互いに確認し、RCS全体としての情報を共有化する。
若手育成の面からは、学会発表等では得られない異分野の研究者による
新たな視点からのサジェスチョンを受けることができ、
新規性等に優れた研究の発掘を行う


3. 学術協定等について主な実績(国際学術交流協定の締結実績など)

協定先 協定内容 締結日
同済大学アジア太平洋研究センター RCS との学術交流に関する協定 2010.9.20

4. 社会連携事業について主な実績(実務講座やイベントの実績など)

名称 概要 実施年度 その他
エコプロダクツ 2010 への出展 日本最大級の環境展示会において、RCS で推進している研究課題 5 件
(衣笠・BKC・APU の研究者による)の環境展示を行った。
同時に、琵琶湖Σ、MOTTAINAI 共生学も展示を行い、
RCS が衣笠・BKCのリサーチオフィスと教学をつなぐ役割を果たし、
画期的な研究教育連携の第一歩となる。
2010年度

5.学外資金実績

公募名称等 委託者等 研究担当者(下線は代表者) 研究課題名 研究期間(年度) 研究費(千円)
科研費 基盤B 日本学術振興会 仲上健一、周瑋生、小幡範雄
、高尾克樹、大倉三和(PD)、
福士謙介(東京大学IR3S 准教授)
気候変動による水資源環境影響評価分析と統合的水管理 2008 年度~2011年度 12,130('08~'10 年度)
環境省環境研究総合推進費 環境省 (大阪大学からの再委託) 周瑋生、仲上健一 都市・農村の地域連携を基礎とした
低炭素社会のエコデザイン
2008 年度~2010年度 24,481
受託研究 運輸政策研究機構 佐和隆光、小杉隆信、近本智行、竹下博之(RA) 低炭素社会における交通体系に関する研究 2008.6~2011.3 16,636
環境経済の政策研究 株式会社三菱総合研究所(環境省) 佐和隆光、小杉隆信、竹濱朝美、一方井誠治(京都大学経済研究所教授)
藤井秀昭(京都産業大学経済学部准教授)、
竹下貴之(東京大学 TIGS 講師近藤久美子(滋賀大学国際センター講師)
低炭素社会に向けての各種経済的手法の短・中・長期的及びポリシーミックス 2009~2011 年度 19,110('09~'10 年度)
受託研究 地球環境関西フォーラム 周瑋生、 中国における CDMの実態と持続可能性に関する研究 2010 年度 1,000
研究助成 (財)矢崎科学技術振興記念財団 任洪波(R-GIRO PD) 広域低炭素社会に向けた地域分散型エネルギーシステムの構築に関する研究 2010 年度 950
研究助成事業 (財)関西エネルギー・リサイクル科学研究振興財団 任洪波(R-GIRO PD) 混合整数計画法を用いた分散型エネルギー技術の導入選択手法の開発 2010 年度 760

6. 設置期間内に採択を受けた学内研究高度化推進プログラム実績

制度プログラム名称 研究担当者
(下線は代表者)
研究課題名 研究期間
(年度)
研究費
(千円)
R-GIRO 研究プログラム 周瑋生、仲上健一、小幡 範雄、高尾克樹、小杉隆信、竹濱朝美
、酒井達雄、中島淳、銭学鵬、峯元高志、小泉國茂、
加藤久明、任洪波(PD)、濱崎宏則(政策科学部院生)、
廉 本寧(理工学部院生)、中村裕紀(理工学部院生)、
蘇宣銘(政策科学部院生)、金斗元(政策科学部院生)
低炭素社会実現のための基盤技術開発と戦略的イノベーション 2008 年度~2012 年度 30,000
('08~'10 年度)

7. 研究メンバー

氏名 所属学部・職名 研究分野 主な研究課題
赤堀 次郎 理工学部数理科学科・教授 数理ファイナンス 気候変動下の経済成長の連続時間確率過程モデル
天野 耕二 理工学部環境システム工学科・教授 マテリアル・フロー、土木環境システム、環境システム分析 農業・食糧系バイオマスを対象とした
環境持続可能性評価指数の開発
神子 直之 理工学部環境システム工学科・教授 環境衛生工学、上下水道工学、水環境工学 水道水質改善手法、水環境の浄化手法など、
様々な水質問題への対応を研究
高倉 秀行 理工学部電子光情報工学科・教授 半導体結晶成長、高性能太陽電池 次世代型高性能光電変換デバイスの創生
建山 和由 理工学部建築都市デザイン学科・教授 生産システム、建設施工学 一律管理から個別評価への転換による資源の有効利用;
建設施工における新技術開発と他分野での展開
近本 智行 理工学部建築都市デザイン学科・教授 建築都市環境システム 人間の心理量・生理量を考慮した人体廻りの環境形成に関する研究;
省エネルギー・環境配慮型建築および空調・熱源システムに関する研究;
都市のヒートアイランドと防災に関する研究;
民生および運輸部門横断的低炭素社会実現を目指す研究
中島 淳 理工学部環境システム工学科・教授 土木環境システム、湖沼水質管理、排水処理技術、水環境工学 水再生・再利用に関する技術開発;
琵琶湖の水環境保全に係る調査研究;安全な飲み水供給に関する研究
吉原 福全 理工学部機械工学科・教授 エネルギー科学 有害燃焼廃棄物の生成機構の解明ならびにその低減化、
固体高分子型燃料電池の開発
峯元 高志 理工学部電子光情報工学科・准教授 素材、新型太陽電池 次世代型高性能光電変換デバイスの創生
佐藤 圭輔 理工学部環境システム工学科・講師 環境情報工学,微量汚染制御工学,GIS 1.地球環境変動が与える水・食料資源への影響評価
2.統合的流域管理に向けた水・物質循環モデルの開発と琵琶湖流域への適用
3.全世界湖沼流域データベースの開発と環境変動への適応策の設計
4.バイオアッセイ法を利用した環境汚染のスクリーニング手法の開発
酒井 達雄 総合理工学研究機構・教授 材料強度学、持続可能設計学 クリーン・エネルギー創出技術の開発;
金属材料の超高サイクル疲労特性の解明;
省エネ・高性能疲労試験機・試験技術の開発;
材料データベースの構築と有効利用促進
春名 攻 総合理工学研究機構・教授 計画理論、都市・地域社会システム工学 都市・地域マネジメント;
循環型農業地域(バイオマスタウン)研究
小幡 範雄 政策科学部・教授 社会システム工学、地球環境システム論 環境効率性の理念整理と指標の体系化
周 瑋生 政策科学部・教授 資源エネルギー、環境政策 広域低炭素社会実現のシナリオ構築に関する研究;
気候変動問題における国際合意形成に関する研究;
地球環境変動に関する人間の社会的側面研究;
サステイナブルなエネルギー戦略に関するシステム的研究;
調和社会構築に関する実証的研究
高尾 克樹 政策科学部・教授 開発経済学、環境政策 温暖化防止政策におけるキャップ・アンド・トレードの実証分析;
水管理における湿地クレジットおよび水取引政策の適用可能性
仲上 健一 政策科学部・教授 水資源・環境政策、アジア太平洋地域の都市環境管理、環境経済・政策 統合的水管理とウォーターセキュリティに関する研究:
気候変動による水資源環境影響評価
村山 皓 政策科学部・教授 政策システム、政治意識、行政施策評価 地域共創の国際人材育成研究;
公共意識と社会的持続可能性研究
CASSIM Monte 政策科学部・教授 産業政策・都市工学・建築学, 国土計画, 地域経済学 地域経済振興における環境・文化的技術政策、
市民社会・コミュニティネットワークづくり、
平和と発展をめざした国際協力
小杉 隆信 政策科学部・准教授 環境エネルギー論 環境・エネルギー・資源に関するシステム分析
西村 智朗 国際関係学部・教授 国際法、地球温暖化問題に関する国際条約制度 持続可能な発展」法(Sustainable Development Law)の形成と発展
竹濱 朝美 産業社会学部・教授 環境社会学、環境影響評価、環境政策、環境教育 太陽光発電の普及策;再生可能エネルギーによる
温室効果ガス削減と地域経済の活性化
島田 幸司 経済学部・教授 環境政策分析 居住選好特性に着目したコンパクトシティ
誘導手段とその評価に関する研究
寺脇 拓 経済学部・教授 環境価値の経済評価 森林資源の生態系サービスの経済評価;
食品表示に対する消費者選好分析
松原 豊彦 経済学部・教授 農業経済学 カナダと日本の農業・食糧問題とアグリビジネス
吉村 良一 法学部・教授 環境法、民法 環境被害の救済における『責任』と費用負担原則
薬師寺 公夫 法務研究科(法科大学院)・教授 人権の国家的保障・国家責任 国際環境法
Sanga-Ngoie Kazadi APU・アジア太平洋学部・教授 地球環境気候システム、自然科学 GIS を用いた植生研究、気候変動研究
Malcolm Cooper APU・アジア太平洋学部・教授 環境影響評価、環境政策、地域の観光政策と地域管理 Volcano and hot springs tourism;
Water Law and water management
Francisco Fellizar Jr APU・アジア太平洋学部・教授 環境資源管理、森林生態学 Integrated Social Forestry as a Development Program:
Analysis Of Effectiveness, Integration,
Participation and Administrative Capability
Peter Heck APU・アジア太平洋学部・教授 マテリアル・フロー・マネジメント Material Flow Management in Asia Pacific Region
中田 行彦 APU・国際経営学部・教授 経営、エネルギー 技術経営 太陽電池、液晶、半導体等の事例から、
日本の競争力を高める方法を研究
山神 進 APU・アジア太平洋学部・教授 国際政治、東アジア研究 アジア太平洋地域における地域協力の課題と展望;
インドシナ難民の日本での定住過程検証および今後への教訓
有井 健 APU・アジア太平洋学部・准教授 環境保全学 環境動態解析;林学・森林工学
銭 学鵬 APU・アジア太平洋学部・助授 土木環境システム、社会システム工学、建設マネジメント、交通工学、都市計画 都市・地域計画とマネジメントの方法論研究
Mark Chesney チューリヒ大学・スイス銀行業研究所・教授 ファイナンス理論 金融工学
佐和 隆光 滋賀大学・学長 環境経済、政策学 グリーン・ニューディールの経済効果と環境影響
和田 安彦 R-GIRO・チェアプロフェッサー 環境システム・環境土木 地域水環境システムマネジメント
加藤 久明 R-GIRO・研究員 政策情報学 サステイナビリティ学の方法論に関する研究
亀井 敬史 RCS・研究員

大野木 昇司 客員研究員 環境政策、中国環境政策、日中エネルギー協力 中国の環境政策事情
任 洪波 客員研究員 分散型エネルギー研究 分散型エネルギー・システムの計画と評価;
バイオマス利活用に関する評価;太陽光発電システムの設計と評価
小泉 國茂 客員研究員 廃棄物循環研究 国際資源循環に関する制度設計
YONGCHUN TANG 客員研究員 環境 エネルギー 気候変動に関する対策技術戦略の構築
Luca Taschini 客員研究員 気候変動に関する数理ファイナンス分析 金融工学
田中 善紀 客員研究員 国際関係学、市民社会論 マレーシア・シンガポールの市民社会論
馬場 美智子 客員研究員 都市・地域計画 地域マネジメント
村山 徹 客員研究員 地域政策 GIS、都市計画、公共政策 都市情報データベース構築;
自治体の政策立案組織と事業展開;持続可能な都市空間の地域政策
山田 幸一郎 客員研究員 都市・地域計画、インフラ、建築に関する研究 都市・地域インフラマネジメント